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高浜虚子
酒もすき餠もすきなり今朝の春
能のある東雲樣や花曇
松蟲に戀しき人の書齋かな
鶏の空時つくる野分かな
蝶々のもの食ふ音の靜かさよ
もたれあひて倒れずにある雛かな
薔薇呉れて聖書かしたる女かな
遠山に日の當りたる枯野かな
打水に暫く藤の雫かな
と言ひて鼻かむ僧の夜寒かな
我子早やいろはかるたを取るやうに
春風や闘志いだきて丘に立つ
大寺を包みてわめく木の芽かな
鎌倉を驚かしたる餘寒あり
時ものを解決するや春を待つ
月の友三人を追ふ一人かな
東山靜かに羽子の舞ひ落ちぬ
咲き滿ちてこぼるる花もなかりけり
散る梅の掃かれずにある窪みかな
廻廊も鳥居も春の潮かな
座を擧げて戀ほのめくや歌かるた
桐一葉日當りながら落ちにけり
我心或時輕し芥子の花
どかと解く夏帶に句を書けとこそ
白牡丹といふといへども紅ほのか
大空に伸び傾ける冬木かな
思ひ川渡れば又も花の雨
ふるさとの月の港をよぎるのみ
紅梅の莟は固し不言
川を見るバナナの皮は手より落ち
鯖の旬即ちこれを食ひにけり
口あけて腹の底まで初笑
炎天に立出でて人またたきす
初蝶來何色と問ふ黄と答ふ
闘志尚存して春の風を見る
彼一語我一語秋深みかも
明易や花鳥諷詠南無阿彌陀
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