石丸繁子の挑戦「HAIKU書」と「TANNKA書」
私は、「子規と漱石」の俳句や短歌を書に表わしている。
彼らの「心友」としての絆に深く感動し、執着すればするほど、
烈しく心が揺すぶられ筆を持たずにはいられなくなる。
それは、彼らの文学への熱い情熱と私の魂が交錯して、制作意欲を
かきたてるからである。そして、私の心象風景を想像豊かな世界へと
誘(いざ)い、「独自な書表現」によって、新たな挑戦を示唆し方向付
けているような気がする。これが、私の書のゆくえ。
出展作品
作品は、子規の提唱する「美の標準」〓「写生論」を背景に、句や歌の響きやリズム感をイメージしたもの。
子規と漱石の俳句と短歌を書表現。
・目をさまし見れば二日の雨リれてしめりし庭に日の照るうれし
子規 明治32年 「病床喜晴」 歩行困難となった子規は、ガラス戸によって
視野を広げ、感受性を豊かなものにしていった。又、天候が子規の心情を左右す
るものであることに気付かされた。
・吉原の太鼓聞えて更(ふ)くる夜にひとり俳句を分類すわれは
子規 明治31年 「われは」 病と闘いながらも子規は、いつものように夜更
けまで俳句分類に精を出していると、吉原の太鼓の音が聞こえてきた。この歌か
ら子規の境遇が窺われ心が打たれる。
・三匹になりて喧嘩す猫の恋
子規 明治29年 季語「猫の恋」 季節「春」 病床にあって、一匹の猫への
思いを巡って、三匹の猫が奪い合いの喧嘩をしている様子を、ぼんやりとガラス
越しから眺めながら作句。
・道ばたやきよろりとしたる曼珠沙花
子規 明治28年作句 季語「曼珠沙花」季節「秋」 「曼珠沙花」は子規が好
きな草花の一つ。色鮮やかに咲き誇った曼珠沙花が「きよろり」としている、そ
の表情を想像するだけで楽しくなる。
・フランスの一輪ざしや冬の薔薇
子規 明治30年作句 季語「冬の薔薇」 季節「冬」 叔父からもらったパリ
土産の一輪ざしに生けられた薔薇は、病床の子規を大いに慰めたことであろう。
美意識の高さが感じられる句。
・帰ろふと泣かずに笑へ時鳥
漱石 明治22年 季語「時鳥」 季節「夏」 喀血し弱気になっていた子規を
見舞った漱石は、そんな泣き言を言わないで「笑って病気を笑い飛ばせ」と激励。
漱石と子規の友情が感じられる。
・秋の雲ただむらむらと別れかな
漱石 明治28年 季語「秋の雲」 季節「秋」 「子規を送る」と前書き。
子規の上京にあたり、漱石は句を詠み別れを惜しんだ。子規と漱石との交友の深
さが感じられる。これが子規、最後の故郷松山であった。
・草山の重なり合へる小春哉
漱石 明治28年 季語「小春」 季節「冬」 奈良の「若草山」の句。
漱石は初冬の春のような暖かい日、帰京のため松山を離れ、途中、奈良の若草山
へ立寄った子規の姿を想像し、この句を詠んだ。
・猫も聞け杓子も是へ時鳥
漱石 明治28年 季語「時鳥」 季節「夏」 漱石が松山の俳人たちに向かっ
て、誰も彼も集まれと子規の帰郷を知らせ、子規に俳句を指導してもらおろうと
呼びかけているように聞こえる。
・どこやらで我名よぶなり春の山
漱石 明治29年 季語「春の山」 季節「春」 漱石は虚子を誘って二人でゆ
っくり道後温泉にひたった。その帰り道に作句。春の山の我を忘れるような駘蕩
とした情緒が感じられる。
出展への想い
・近代文学を代表する二大文学者「子規と漱石」の友情、「心友」としての絆の深さを、
世界のHAIKU愛好者に広く認知していただきたい。さらに句や歌については、私の心象
風景を筆を通して世界へ発信したい。
・子規の願望は洋行。子規周辺の友が相次いで欧州へ米国へと留学していく中、病床生活
の我が身を思い、どれだけ悔しかったことか。子規は、欧米への想いを馳せ、句や歌を
作っている。子規に執着すればするほどその想いを叶えさせてあげたいという気持ちが
増幅し、「子規さん、ついにフランスへ」と繋がった。
第14回 Japan Expo 2013」 閉幕 − 所感
7月5日〜8日の4日間、フランスのパリで「Japan Expo2013」が開催された。
入場者数は23万人と聞いている。
予想通り人、人、人。人の波に押される日々であった。
イベント風景は、アニメ・マンガ・ゲームのポップカルチャー、観光や物産品といった日本に関する情報や物の展示、柔道や剣道・空手といった武道の体験コーナー、舞台では盆踊りなども披露、お好み焼き・たこ焼きなど日本食屋台が並び、学校の文化祭のような感じもした。
そんな中を、日本文化に触れ、楽しみながらアニメや、ゲームのキャラクターに変身した若者達が列を成して練り歩く姿は、まさに"なんでもあり"の雰囲気であった。
このコスプレイヤー達は、自分が主役だといわんばかりに、一大イベント〓お祭り騒ぎを堪能していた。
日本文化への興味や関心の広さや高さを物語っている。
私は、日本伝統パピリオン「WABI SABI」に『子規と漱石』のHAIKU書とTANKA書を出展した。
洋行を果たした子規さんに、漱石さんと同行できたことなど満足したか、尋ねてみたいものである。そして、この若者主流のイベント全般について子規さんは、キーワード「美の標準」をどう考え論じるのであろうか。
芸術の都「パリ」だからこそ、よけいにあの広大な空間の演出のありようを入場者の年齢層も踏まえて、私はより「美的空間〓高感度な空間」として位置付けてもらいたいと思うのである。アンテナをエッフェル塔よりも高くして・・・。
これはあくまで、私のブースと周りのブースを見渡しての考えに過ぎない。
ある若者が、「パリで個展はしないのですか?」といった。
彼は、私の作品を見て何を感じ、どう思ったのか、少し気になった。
成田空港へ到着した途端、パリの気候が快適だっただけに、蒸し蒸しした暑さに閉口した。
極端に違うこの猛暑に、いくら強靭な精神の子規さんでも根を揚げているのでは?
暑さと時差ボケと戦いながら、早く子規さんのHAIKUとTANKAに向き合いたい。
出展ブース
会場の様子
パリの風景